前回の記事をアップした後、古いスタッフSさんから「落ちたら終わりのクレバス。足を滑らさないように」って部分をツッコまれてしまいました。「受験がテーマのブログなのに……ぞくぞくしました」と。いやはや受験生のみなさん、失礼しました。我を忘れて書いてました。もし、気分を害された方がいらっしゃったら、今日の記事は読まないことをお勧めします。
天気予報では登頂日は曇りのち雨となっていたため、今度こそアウトだと覚悟していました。しかし、午前2時の朝食の時に外に出てみると晴れています。もしかしたら登頂できるかもしれない……という気がしてきました。オーストリア人ガイドのトゥビアスさんには、マッターホルン登頂にかかった時間を伝えてあったので、わりと信頼してくれたらしく、頂上まで行く気まんまんのようでした。出発は2時半。氷河の上を歩いた時には、ヘッドランプの光が雪(氷?)の結晶に反射して、雪面がまるで星空のように輝くのです。これには鳥肌が立ちました。途中、氷河のクレバスをトレッキングポール3本とピッケルを使って渡るということもしました。危険を感じたのはまだまだあります。風が強くなってくると手と足の先端が冷たくなってきました。マッターホルン用に保温性を捨てて軽量性を取った靴を履いてきていたためです。こんなことなら保温性の高い靴も持ってくれば良かったと後悔していました。
頂上が見えてきたため「もう少しじゃないか!」と喜んだところ、トゥビアスさんが「2o’clock」と言うのです。「2時間!?」耳を疑いました(それはおさらいできる日本史でしょ)。日本のアルプスなら30分くらいで登れそうだからです。不思議に思いながら登っていくと、現れたのは岩と氷の壁でした。フィックス・ロープ(岩に固定された太いロープ)がついているものの、足を置く場所がほとんどありません。トゥビアスさんが先に登り安全を確保したところで、僕が登りだします。それを何度かくり返さないと頂上にたどり着けないのです。どうりで時間がかかるわけです。
岩壁。後ろをふり返って撮ってみました。フィックス・ロープが垂れています。こんな感じに雪のついた岩壁を登ってきました。下に2人の人がいるのがわかるでしょうか。
ここで僕は自分の右足を心配していました。アイゼン(靴底につけた金具)が外れそうになっていたのです。どうもつま先の部分ががっちり固定できないのです。ベルトを強く締め直し、慎重に岩壁を登り始めました。しかしやってしまいました。急斜面の岩壁のわずかな突起に、右足のアイゼンの爪をかけて踏み込んだところ、アイゼンが外れて滑落したのです。身体はトゥビアスさんがロープで確保してくれているので、下まで落ちることはなかったのですが、後頭部を岩にぶつけました。モンテ・ローザ登山は歩きが中心なので、ヘルメットをかぶっておらず、ニット帽にレインジャケットのフードをかぶっているだけでした。僕の頭は硬いので幸いなんともありませんでしたが、もしかしたらヤバいことになった事故でした。
後でトゥビアスさんがアイゼンをチェックしたところ、新しい靴にはふさわしくないものだということがわかりました。専門的なことになりますが、つま先にコバのついた靴でないと使えないタイプのアイゼンだったのです。コバのない新しい靴には、つま先を2本のゴムでホールドするタイプのアイゼンでないといけないのです。神保町のさかいやで靴を買ったときには、このアイゼンで合うと言われたのですが……。あてになりませんね。
モンテ・ローザ小屋のディナー。夕飯はコース料理です。スープからデザートまでしっかり出てきます。そしておいしいです。しかもおかわりアリで、みんなおかわりしてました。僕は自粛しました。料理の写真はありません。マナーに反するかと思って撮りませんでした。この席、お誕生日席なんですよ。なのに英語が話せないという、穴があったら入りたい気分でした。
受験生にかわって僕が落ちておいたということで、ご容赦願います。