前回に引き続き、受験に関係ない話です。
4日目はトムラウシ山に登りました。その途中に「日本庭園」と名付けられた場所があります。
自然にできたとは思えない、みごとな岩と緑のバランスでした。こういうのを見てしまうと、いくら小堀遠州がつくった庭であってもしょぼく感じてしまいます。前にも後ろにも人はまったくいないので、木道に座って一息つきました。こういう場所を一人で独占してしまえるのはぜいたくですね。
残念ながら、頂上からは全方位をすっきり見渡すことはできませんでした。この日は地図上のコースタイムが12時間半だったので、あまりゆっくりもしていられず、十勝岳方面に向かいました。今回の縦走では、長時間歩くことを目標にしていました。そのため、毎日だいたい12時間前後の行程でした。もちろん早足で歩くので、実際には休憩を入れても10時間はかかりません。
これは雪渓が溶けつつある南沼です。岩と緑と雪渓と沼に花が加わって、実に美しい景色でした。北海道ならではです。
さて、怖いのはここからでした。トムラウシ山と十勝岳をつなぐ縦走路は歩く人が少なく、クマが出るとの話だったのです。クマザサに覆われて、登山道が見えなくなっていることもしばしばです。「こんなところでクマに遭遇したら、固まっちゃって動けないだろうな……」とびびっていました。クマ対策の鈴をおばさんから借りていたのですが、それをザックにつけるだけでは心配で、「あー、あー、あー、あー、あー、あー……」とか「あ・え・い・う・え・お・あ・お」などと大声を出しながら歩きました。発声練習ですね。夏期講習に役立つはずです。
途中では3人しかすれ違いませんでした。キャンプ場の水が涸れている可能性があったので、その手前の沼で水を汲んだのですが、茶色っぽい上に赤い小さい虫がうようよしていて、「たとえ煮沸しても、これを飲むのはキツイなあ……」と尻込みしていました。幸いキャンプ場に水が流れていたので飲まずにすみました。そこは今まで泊まった中では、ナンバーワンのキャンプ場です。双子池キャンプ場というところで、みごとに何もないところなのです。僕以外には誰もいませんでした。
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5日目、いよいよ最終日です。まずオプタテシケ山に登り、つづいて美瑛岳です。
美瑛岳まではこんな感じのお花畑があるのですが、十勝岳にさしかかると突然、荒涼とした風景に変わります。
これは驚きました。火山のため植物も生えないし、まだ噴火の後が生々しく残っているのです。最後の最後でテンションが下がってしまいました。
ふり返ってみると、北アルプスなどとは違って、ここにはチャラい登山者がまったくいませんでした。食料と寝具を持参しないと縦走できないため、荷物が20~30kgになりがちです。今はやりのウルトラライト登山なんてやっているのは、僕くらいなものでした(僕の荷物は約11kg)。そもそもクマに出遭う可能性があるので、軽い気持ちでは行けません。僕がトムラウシに登った日のちょうど5年前には、ガイドを含む9人もの登山者が低体温症で亡くなる遭難事故がありました。
今の登山ブームに眉をひそめる人は、北海道の山に登るといいと思います。「古き良き時代の山登り」を味わえますよ。