2012年北アルプス大縦走(2)

昨日の続きです。
迎えた7日目。いよいよ大キレットです。槍ヶ岳から見た朝焼けに見とれて、ついつい出発が遅れてしまいました。でも、このころには山歩きに慣れてかなり速く歩けるようになっていました。重かった食料が減って荷が軽くなったのも良かったです。

さて、槍ヶ岳と北穂高岳の間にある大キレットという場所は、岩だらけの斜面をよじ登ったり、よじ降りたり(?)が延々とつづく厳しいルートです。手足をすべらせたら滑落死するような場所が頻繁に現れます。最後のほうでは、「まだあるのかよ」と独り言まで出る始末でした。冷や汗もののコースです。


これは大キレットではありませんが、こんな感じで鉄のくいに足をかけながら昇り降りする場所もあります。軽い足取りで登っているように見えるのは、危険さに慣れてしまっているからです。伝わりにくいでしょうが、これは下から見上げて撮った写真なのです。のちに知り合うことになる吉田さんが、たまたま撮ってくれていました。

ようやく北穂高岳に登り着いたときには、遙か後方にかすんで見える剱岳を見ながら、思わず涙ぐみました。自分の歩いた距離を目で見て実感できるのが、山の醍醐味の一つです。自分の人生をふり返る行為にも似て、感慨深い思いができます。過去をふり返ってこれからの行く末を考えるのは、人生では大切なことです。

大キレットを終えた時点で、気持ちの糸が切れてしまっていたのですが、聞けば九州大の若者は、前穂高岳まで登ってから上高地に降りると言うのです。さらに、この後に知り合いになった吉田さんという男性も、「奥穂高岳と前穂高岳の2つの3000m峰を登らずに帰るなんてもったいないです!」と力説してくれました。なんだか今回は、周囲の人たちによって僕のルートが決められていったようです(笑)
ちなみに吉田さんは、12泊もの長期縦走をしちゃうような北アルプスフリークでした。大きなカメラで撮影しながら歩いていて、今どき珍しく渋い男性で、短いながらもいろんな話を聞かせていただきました。そして親しくなったついでに、写真を送ってもらえないかとお願いしてみました。いや、翌朝の朝焼けがあまりにもきれいだったのに、僕のコンパクトデジカメでは見たままの色が出なそうだからです。そうして後日いただいた写真がこちらです。

ほんとうにこんな赤色でした。朝、4時台の山頂は風がピューピュー吹いていて、かなり寒いのですが、みんな無言でこの朝焼けを見つめていました。その寒さがよくわかる写真がこちらです。

これは僕のデジカメで撮ってもらったものなのですが、吉田さんが撮ると味わい深い写真になりますね。うちのスタッフからは、「先生、写真の下手さをカメラのせいにしすぎです。腕が違うんですよ!」とたしなめられました。それにしても頬がこけすぎですね。明らかにカロリー不足です。この時点で体重は50kgを切っており、体脂肪率も1ケタ台にまで落ちていたようです。

昨年の登山でも思いましたが、山で会ってお話した人というのは、なぜこうも記憶に残るのでしょう。何度もふり返って思い出します。8日間という長さもあって、今まででもっとも印象深い山行になりました。おかげで日常生活にもどるのが一苦労でした。

大学時代は、よく「夏の活動に精根尽き果てて、夏の終わりはぼーっと過ごす」ってことをしていましたが、久しぶりに「魂が抜ける」感覚を味わうことになりました。

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