市販の史料集の弱点(1)

昨日に引きつづき、今日も問題集についての話です。

みなさんの高校では、史料集に何をつかっていますか?
写真や地図などの「資」料集(図説)ではなく、
昔の史料文とその口語訳を収録している「史」料集の方です。
最近、第一学習社の『新日本史史料集成』が広まりつつありますが、
通算販売部数で言えば、たぶん、
山川出版の『日本史史料集』が1位だと思います。

先日、ある現役生から、
史料対策にこの山川の史料集を使うのはどうですか?
と聞かれました。
絶対ダメってことはないのですが、
致命的な弱点を把握したうえで使うべきです。
それは史料中の「赤字」です。

たとえば、こちらを見てください。

●改新前の世相
 (大化元年九月)甲申、使者を諸国に遣はして、民の元数を録す。仍りて詔して曰く、「古より以降、天皇の時毎に、代の民を置き標して、名を後に垂る。其れ臣連等・伴造・国造、各己が民を置きて、情の恣に駈使ふ。又、国県の山海・林野・池田を割りて、己が財として、争ひ戦ふこと已まず。或は数万頃の田を兼ね并す。或は全ら容針少地も無し。調賦を進る時に、其の臣連・伴造等、先づ自ら収め斂りて、然して後に分ち進る。(編注:以下略)(日本書紀)

受験生はこれを見て赤字を覚えるのでしょうか?
でも赤シートを使ったら、これがすべて消えてしまうんですよ。
ま、まさか、バカ正直にこの赤字を全部覚える人はいませんよねえ?
いや、何も知らない真面目な受験生だったら……、
ちょっと心配になってきました。
普通の史料問題で空欄になるのは、一文ではなく、一つの語句です。
さらに真実を伝えてしまうと、
この史料、赤字どころか史料そのものがめったに出ないのです。
わずかな出題例として2003年の上智大がありますが、
「天皇の時毎に、(  )の民を置き」
と空欄穴埋め問題が選択形式で出題されただけです。
そして選択肢には「代」はなく、「名代」を選ばせていました。
しかもダミーに「子代」がないため、そこで悩むこともありません。
ってことは、ちょっと考えるだけで正解できるじゃありませんか。

参考書の赤字を鵜呑みにするのは危険だということが、
少しはわかっていただけたのではないでしょうか?