東京学芸大学の論述問題

論述問題に慣れていない人がしくじりがちなことの一つに「冗長な説明」というのがあります。日本史を知らない人に説明するかのように書いてしまうわけです。いや、採点者は教授ですからそんなことは求められていません。歴史的意義の大きなものを優先しながら、制限字数いっぱい歴史事項を書き並べてください。

まさにその勘違いをしていた現役生からメールをいただきました。

<Tさん>
はじめまして。X高校のTと申します。クラスの友達が石黒先生の授業を受けていて、「データを取っていて、分かりやすいから聞いてみたら?」と教えてくれたので質問させていただきます。

東京学芸大を志望していて、その過去問です。
2016年度の問題Iの問10の仏教に関する問いの論述問題なのですが、参考書等を見てもなかなかうまくまとまった答え方ができません。どのように書くのがベストなのか教えていただきたいです。

【問題】
史料A~Cとこれまでの問いも参考にしながら,日本古代における仏教の展開について,次の語を必ず用いて論じよ。
物部氏 鎮護国家 密教 浄土教

赤本の解答解説はこのようになっていました(※編注:解答は略します)。
密教から末法思想そして浄土教までの流れの説明がこれだけで十分なのかが少し不安でした。

【Tさんの解答】
6世紀に百済の聖明王から仏教が伝わり、その後、崇仏派の蘇我氏と排仏派の物部氏の間で崇仏論争が起こる。8世紀になると鎮護国家思想のもと、聖武天皇が大仏造立の詔や国分寺建立の詔を出し、仏教の力を使って国家を統治しようとした。最澄が開いた天台宗は、最澄の死後、弟子の円仁と円珍により、山門派と寺門派に分かれ、密教化し、空海が開いた真言宗はもとから密教であった。その後、極楽浄土を願うことが広まり、浄土教として人々の間に広まった。

<石黒>
古代仏教の展開は論述問題では定番ネタです。赤本の解答こそ「過不足なく」書かれていて完璧です。逆にTさんの解答は文章としては間違ってはいませんが、文字数に対して細かすぎる内容が多く、そのせいか史料Cで扱っている「末法思想」に触れていません。また、論述解答は人に説明するために書くというより、事実を列挙することが重要だと考えてください。しかも歴史上重要なことを優先して、です。

ブログに掲載するにあたってTさんの解答を再度読み返してみると、読点が多いですね。キーワードをできるだけ多く盛り込むためには読点は減らすべきです。また「起こる」ではなく、基本的に過去形で書くべきです。さらに浄土教は正確には極楽浄土を願うのではなく、極楽浄土に往生する(うまれかわる)ことを願う信仰です。

論述では「物語る」必要はありません。教科書タッチの無味乾燥な文章で良いのです。ま、つまんないですけどね(笑)

でる日講義-とことん文化史-