早稲田大学などのハイレベルな正誤問題には、各種辞書類を駆使しても正誤判別に苦しむものがあります。教育学部の問題のように「正しいものをすべて選べ」と問われてしまうと消去法を使うこともできず、受験生はもちろんプロの解答作成者もお手上げとなることもしばしばです。以前に即日解答速報をやっていた時は、作問者の独断ぶりを呪ったものです。
先日、まさにそうした問題について質問をいただきました。
<Iさん>
石黒先生こんにちは
過去問を解いていたら疑問に思う点があったので質問しました
2007年 早稲田教育学部
大問2
問4 資料(1)に関して、正しいものをすべてあげよ
ア 日親が『立正治国論』をもって、時の政府に諫言した。
イ これにより困窮した御家人たちの不満は増大した。
ウ 主として火器をともなった集団戦であった。
エ 主として火縄銃を用いた個人戦であった。
オ このあと中国産の生糸や朝鮮半島の木綿がもたらされた。
この資料は高麗使が日本に持ってきたフビライハンの朝貢要求の書だと思います(推測ですみません)
東進ではこの問題の答えが イ、ウ、オなのですが
オの答えに多少違和感がありましてこの選択肢は何を示しているのかさっぱりわかりません
室町時代の日明貿易 日朝貿易のことを指しているのか、はたまたただの民間貿易のことを指しているのかがわかりづらくその点において石黒先生に答えていただきたいです!
<石黒>
この選択肢オの判別は、かなり悩まされるものでした。解答は各社で割れていまして、河合塾と赤本ではこれを誤文、旺文社は正文と解答していました。僕自身はこれを正文として解答速報を発表しています。
史料は有名史料で、1268年に日本にもたらされたフビライの国書です。
僕が注目したのは「このあと」と「朝鮮半島の木綿」です。鎌倉時代には高麗の商人がさかんに来日して交易していましたが、その時の輸入品としては、「木綿」は強調されません。そして、高麗が元に侵略されてからは日本との交易も困難になりました。
その逆に朝鮮からの輸入品として「木綿」が強調されるのは、15世紀の李氏朝鮮との貿易です。ここでの「木綿」or「綿布」は頻出用語です。
こうしたことから考えて、僕はオを正文と考えました。しかし、早稲田入試における「すべて選べ」という問題では、解答個数が3つになることは少ないため、かなりためらったのも事実です。ただし、この大問には解答個数が3つとなる小問が他にもあります。問7です。それを考えると「この問4も解答が3つであってもおかしくないかもしれない……」とも考えました。ちなみに問7も解答が割れていて、河合塾だけは正解をア・ウとしていました。他社はみなア・ウ・オです。
早稲田、なかでも教育学部は判断に苦しむ正誤問題をよく出題しています。この問題などは作問ミスに近いと言えるでしょう。今後役に立ちそうな内容ならこだわるべきですが、そうでなければ割り切って無視してもかまわないんじゃないでしょうか。無駄な労力をかけるのもしゃくですから。
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