2010年夏の日本史道場のテキストから(1)

入試では、戸籍や計帳の史料が出されて、その戸に班給される口分田の面積とか、その戸が負担する調や庸の量を計算させる問題があります。未見史料の読解に加え、計算能力が問われる厳しい問題です。口分田の大きさなら、男女、良賤の比率の計算ですみますが、調庸の量となると大変です。正丁・次丁・少丁によって納める量が異なるので、メンバーの年齢区分をした上で、納める比率を思い出して計算しなければならないのです。算数なんですが、これを嫌う人は多いでしょうね。

たとえば立命館大ではこんな問題が出されています。

問 次の史料を読んで,(a)~(c)の問いに答えよ。ただし,史料は一部読みやすく改めている箇所がある。

戸主出雲臣大海 年弐拾捌歳 正丁 右掌黒子 右鋳銭寮使部
母大初位下高市県主笠売 年陸拾陸歳 [丁女] 左目辺黒子
女出雲臣真東方売 年参歳 [緑女]
兄少初位上出雲臣置見 年伍拾弐歳 正丁 鋳銭寮史生
女出雲臣刀自売 年弐拾弐歳 [丁女] 右眉黒子
女出雲臣東方売 年拾壱歳 [小女] 右眉黒子
女出雲臣小東方売 年参歳 [緑女]
兄出雲臣大屋 年肆拾歳■正丁 養老五年逃
守君意由売 年参拾陸歳 [丁女] 右鼻本黒子
(『正倉院文書』)
(編注:■には、さんずいの右側に七と木を上下に並べた字が入る。)

(a)この史料は,山背国愛宕郡出雲郷雲下里に属する,ある戸の戸主と戸口(構成員)の名を書き出した帳簿(726年)である。この里付近には,のちの山背国一宮(賀茂神社)が置かれていた。このあたりは現在の市町村名でいうとどこにあたるか。
(b)この戸で税を負担しない者(不課口)は何人いるか。
(c)史料中,[  ]で囲ったのは女性の年齢区分であるが,一カ所だけ区分をわざと変えている所がある。年齢と区分とが合わない人名を答えよ。なお行頭の「母」「女」や官位などは省き,姓名のみを書くこと。

答えはこの先にあります。携帯でごらんの方は、答えを出してから画面をスクロールしてください。

(b)の問題もさることながら、(c)がまたすごい問題となっていますね。そもそも女性の年齢区分なんて聞いたこともないのに、矛盾しているものを探さなきゃいけないのです。しかも人名の書き方にも細かい条件をつけています。これは知っていて解く問題ではありません。知らなかったけど、考えたら正解できちゃう問題なのです。

正解は、(a)京都市 (b)6 (c)高市笠売 でした。

これは、2010年の夏に行われた「日本史道場」のテキストに掲載されていた問題です。相当な推測力が必要だということがよくわかるかと思います。どう推測するとこんな答えになるのかは、今年の夏の「日本史道場」に譲ります。