その日、前夜の食べ過ぎで下したおなかをさすりながら、重い足取りでヘルンリ小屋に向かっていました。尖った形が特徴的なマッターホルンに登るためです。
ヨーロッパ・アルプスに登るのは初めてだったので、最初はもう少しラクに登れるモンブランを計画していました。ところが申込者が少なく、ツアーの催行が危ぶまれたため、難しくても人気の高いマッターホルンに切り換えました。ここは前から目標としていた山です。すでにあちこちで経験者から登頂の難しさを聞いていました。「スピードが大切だ」とか、「休憩なしで何時間も歩かなければならない」とか。なかでも頭を抱えたのは、「天候が悪いとすぐ中止になるから、登頂成功率は3分の1」というものでした。実際、悪天候で断念した人が何人もいました。僕自身は昔からさんざん「雨男」と言われてきたため、打ちひしがれたのは言うまでもありません。ツアー料金はン十万とかなりお高めです。それが天気のせいで台無しになるかもしれないとは、大変なギャンブルですね。そうなると、自分の力でどうにかなることは、できる限りしておくべきです。すぐさまスポーツジムに入会し、新しい軽い靴を買い、クライミングの個人レッスンを受けました。仕上げは岩場の多い槍ヶ岳から西穂高岳への縦走でした。日にちに余裕がなかったので、ザックを背負って予備校に行き、そのまま山に直行しました。こんなふうに、準備に準備を重ねてスイスに飛んだのです。
スイスの食事は基本的に量が多く、何もかもが1.5~2人前で出てきます。和食なら食べられないこともないですが、脂っこいものが多いわりに野菜が少なく、胃には重い負担となります。日本を出てからロクなものを食べていなかった僕は、本番前夜、意気込んでフィレステーキに人参スープと炭酸水を頼んでしまいました。もちろん1.5人前です。スイスは物価が高く、これで8千円くらいしたはずです。残すのはもったいなくて、全部たいらげました。しかし座席が屋外だったため、おなかを冷やしてしまいました。いや、そもそも食事の前にアイスクリームを食べていたのが失敗でした。
高床倉庫。ツェルマットの町にあった、高床倉庫。支柱にネズミ返しがついています。
マッターホルンと登山鉄道。ツェルマットからは、各方面に鉄道やゴンドラが延びていて、高いところまでラクに行けるようになっています。
世界の車窓から。この登山鉄道の終点であるゴルナーグラート駅で降りると、周囲360度、スイス・アルプスを眺望できます。
Posted by 石黒 拡親 on 2015年8月3日
世界の車窓から。この登山電車の終点であるゴルナーグラート駅で降りると、周囲360度、スイス・アルプスを眺望できます。
このシリーズ、しばらく続きます。受験に関係する話は出てこないので、興味のある人だけお読みください。