出題ミスに対する大学の対応(2)

昨日の続きです。

この大学に問い合わせたX先生からメールをいただきました。
そのやりとりを紹介します。

<X先生>
石黒拡親 先生
はじめまして。予備校の○○で日本史を担当しておりますXと申します。私も先生のご本を読み込んで授業に活用しています。さて、このたび福岡大学入試問題についてご報告いたします。
回答文書を受け取った後、入学センターへ電話したところ、これ以上の回答はしないとのことでした。高校の先生方は大学から推薦枠が提供されているなど、個人のご意志では行動を起こしにくいお立場かもしれません。しかし、大学合格を目指して努力してきた受験生はこのような大学の対応に従わざるをえないのでしょうか。入試は主催する大学の立場が強いように思われますが、受験生にも守られるべき立場はあるのではないでしょうか。入試は厳正かつ公正であるべきで、出題ミスを認めようとしないのは大学の保身以外の何ものでもありません。本来合格するはずだった受験生が不合格となっているのであれば、遺憾に思います。「家綱将軍就任後の慶安の変」「探幽が家康の御用絵師となった」などは明らかに歴史誤認です。このような大学の一方的な判断がまかり通り、史実とは異なる歴史観が大学入試で正解とされています。(中略)今回の福岡大学の入試問題とその対応について、石黒先生のご見解を頂戴できれば幸甚に存じます。何卒、宜しくお願い申し上げます。

<石黒>
拙著をお読みいただいているとのこと、大変恐縮に存じます。
一つ一つ質問にお答えしていきます。
まず、源頼家についての問題は、大学側の回答の通りで、
とくに瑕疵があるとは思いません。
入試問題においては、
空欄の前後の文脈を無視して小問が出題されることは、
しばしばあるものです。
2つめの螺鈿紫檀五絃琵琶についての問題は、
たしかに教科書表記は「絃」ですが、
こうした美術作品の名称はあまたの例を挙げるまでもなく、
別名が存在するのが普通ですから、
瑕疵と言い切ることはできないと思います。
もちろん「絃」と表記すべきだったとは思いますが。
3つめの由井正雪の乱については、まずい出題でしたね。
ただし、以前の清水書院の教科書でも、
「1651年,3代将軍家光が死去し,家綱が4代将軍になった直後におきた由井正雪の乱(慶安の変)は,そうした牢人の不満を利用した倒幕計画であった。」
と書かれており、よくある勘違いかとも思います。
4つめの狩野探幽についての問題は明らかに作問ミスですね。

ちなみに、上記程度の作問ミスおよび、それまがいの問題は、
他のいろんな大学の問題をチェックしていくと、
ものすごい数で存在しています。
そしてその多くは何の対応もなされないままとなっています。
X先生はそうした実情に、
憤りを感じていらっしゃるのだと推測しますが、
一番いいのは、
実害を被った受験生とともに抗議することかと思います。
実際にこうした出題のせいで被害を被った実例をつきつけないと、
なかなか大学側は動かないものです。
もっとも、当方はこのような現状が、
すぐに改善されるとは思っておりません。
たとえば、私立最難関でもっとも注目を浴びる早稲田大学などでも、
作問ミスを指摘したところで、
「適切な対応をしております」と回答されるのが関の山です。
私たちにできる最善の策は、
受験生に対してこう指導することでしょう。
「あくまでも大学側が正解と想定していそうな解答をするべきだ」と。
空しく感じられるかもしれませんが、
実益を取ることが予備校にもっとも期待されていることであるのは、
間違いありません。

日々、何千もの入試問題を見ていると、
首をかしげるような出題は、掃いて捨てるほど目にします。
バランスを取って付け足すと、
世の問題集には解答のミスがうんざりするほどあります。
もちろん山川出版の用語集にだって間違いはあります。
なので、正直なところ、
この程度の出題ミスにはとくに驚きませんでした。
日本を代表するような最難関大学は別としても、
試験を受ける立場である以上は、どうしても、
「採点者にマルをもらえる解答」を書かざるを得ません。
そうした従順な姿勢を取らなきゃいけないことに怒りを抱くより、
むしろ高みに立って、オトナの配慮をしてあげる方が、
合格の実は採りやすいです。
何度も虐げられるのは腹立たしいですが、
受験生にとっては1度か2度の経験なのですから、
ドライな姿勢で対応した方が勝ちだと思うのです。

受験生、卒業生、そして社会人のみなさんはどう思われましたか?