みんなを悩ます正誤問題

正誤問題を苦手としている人は結構多いようですが、
大学入試の正誤問題の作り方をそもそも把握しておくべきなんですよ。
どういうところでウソをつくものなのか、
ある程度のパターンというかタイプがあるんです。
そのうえで、出題者によって
歴史のとらえ方が違うことを認識すべきです。
あくまでも出題者が正文と考えているものを正しいと、
誤文と考えているものを誤りと判断してあげなきゃいけないんです。
イマイチわかりにくい説明ですね。
じゃあ一目瞭然の問題を紹介しましょう。
2001年センター試験日本史Bの正誤問題にあった選択肢の一つです。

井伊直弼が,勅許を得ないまま日米修好通商条約に調印したことは,尊王攘夷運動を高まらせた。

これは正しいでしょうか? 誤りでしょうか?
歴史事実に照らし合わせてみると、誤りです。
なぜなら本当に日米修好通商条約に調印したのは、
井伊直弼ではなく、井上清直と岩瀬忠震だからです。
しかし、この問題においては正文と判別すべきでした。
なぜなら、これは誤文を1つ選ばせる問題で、
選択肢には次の文が存在していたからです。

桜田門外の変のあと,老中阿部正弘は,尊王攘夷論を抑えるため,公武合体運動を推進した。

こちらは明らかに誤文ですね。
阿部正弘ではなく安藤信正ですよ。

これでわかったでしょうか?
正誤問題では選択肢を比較し、もっとも正しいものや、
もっとも誤りなものを選ばなければならないんです。
だからこそ単なる歴史事実を知っているだけでは、
入試で高得点は取れないんです。

さて、前段のつもりだったのですが、えらく長くなってしまいました。
本題はここからです。
こんな質問メールが届きました。

<Hさん>
石黒先生こんばんは。河合塾藤沢現役館でお世話になっているHです。今日、代ゼミの全国私大模試を受けたのですが、そこでわからない問題が出題されたので、どのように回答を導けばいいのか教えてください。

(戦後のGHQ占領~日米安保条約調印までを問う大問です。)
問.下線部b(日本国憲法)についての誤った説明文を、次から選べ。
(1)国会は国権の最高機関であり、国唯一の立法機関と定められている。
(2)内閣総理大臣は国会議員の中から選出する。
(3)憲法制定と同時に衆議院議員選挙法も改正され、女性に参政権が与えられた。
(4)大日本帝国憲法を改正する形式をとって制定・公布された。
(正解:(3))

まず、(1)と(2)は明らかに正文なので削除し、(3)を見てみると「憲法制定と同時」と書いてあったので、これが誤文かと思いました。しかし、(4)の選択肢の「大日本帝国憲法を改正」というところに引っ掛かってしまいました。日本政府は松本委員会で作った大日本帝国憲法とほとんど変わらない憲法草案をGHQに提出して拒否されているし、その後マッカーサーの提示した草案を修正して日本国憲法にしたということから、この部分も誤っているように思えてしまい、(3)と(4)で迷いました。
より明らかな誤りがあるほうを選ぼうとしたのですが、どちらも非常に明らかだと思ったので、二分の一で(4)に賭け、見事撃沈でした。解説には(3)が間違っている理由しか書いてなかったので、どのように(4)を削除すればいいのかわかりません。お手数ですが、教えてください。
よろしくお願いします。

<石黒>
確かにH君の現段階の既存の知識では、
(4)を正文と言い切ることはできないだろうと思います。
詳しい解説をしますと、
「大日本帝国憲法を改正する形式」というのは正しいです。
GHQが示した改正案を「もとにして」政府草案が作られたので、
日本が作ったものではないとの主張は誤りなのです。
ちなみに、現在憲法改正を主張する人たちの間では、
「日本国憲法はアメリカが作ったものだ」と言われがちですが、
その考え方は大学入試的にはまずいです。
この政府草案は枢密院・衆議院・貴族院で審議・可決されていますし、
そもそもGHQの改正案自体も、
日本の私擬憲法を参考にしたりしています。
そのあたりは通年授業でお話しします。
また、いわゆる9条の戦争放棄については、
当時の国民世論の7割が賛成・支持していました。
さて、一方の(3)は明らかに誤文です。
あまりにも時期が違いすぎます。
それは『でる日講義−つながる近現代−』のノートでも、
明らかにわかるでしょう。そもそも内閣がズレてますよ。
(4)の正誤判別が悩ましいのはわかりますが、
(3)を誤文と言い切れなかったのは、
H君がまだまだ大学入試の正誤問題に慣れていない、
ということを示しています。
こうした時期誤りタイプ誤文は大学入試では定番です。
正誤問題では、
ダミーの選択肢をすべて削除できる知識が必要なわけではありません。
消去法で解く時もあれば、一発で正解を見破る時もあります。
今回は後者に相当します。
もちろん、「大日本帝国憲法を改正する形式」だったことは、
覚えておいて損はないので、これを機にGETしておきましょう。

万全を期して類題で確認しましょうか。
2007年慶應大学経済学部の正誤問題です。

問 占領下での民主化政策について述べた次の文章1~4のなかから誤りを含む文章を1つ選びなさい。
1.GHQは民間人の発表した憲法草案などを参考にマッカーサー草案を作成した。この草案を土台とした政府原案が大日本帝国憲法の改正手続きに従って帝国議会で審議され、原案の一部を修正し日本国憲法が成立した。
2.日本国憲法が主権在民・基本的人権の尊重の原則を定めたため、その精神に基づいて、教育基本法の制定、労働組合法の制定、女性の参政権を認めた選挙法改正、民法・刑法の改正などが行なわれた。
3.労働組合法の制定によって労働者の団結権・団体交渉権・争議権が保障された。また労働基準法の制定によって8時間労働制、女性・年少者の労働制限などが定められた。
4.戦後改革によって労働運動や社会運動は急速に高揚し、大規模な二・一ゼネストが計画されたが、マッカーサーの命令により中止された。また、政令201号によって公務員の争議権・団体交渉権が奪われた。