2010年夏の日本史道場のテキストから(2)

史料問題には多数の大学で出題されている定番史料問題と、普通の受験生は見たことがない未見史料問題があります。定番史料問題は、史料問題集で備えていれば「そこそこ」正解できるでしょうが、備える箇所が間違っていると何の効果もありません。どういうことかというと、どこかの史料問題集をやったとしても、そこでは問われていない箇所が出題されることがしばしばあるからです。問題集選びは慎重に行わなければなりません。その点、当方の『どこでも史料問題』は、過去の出題データにもとづき、問われる部分を網羅しています。しかも出題率にあわせてチェックできるように作ってあります。
油断ならないのは、史料文と現代語訳がついた史料集です。もっとひどい状況になっています。その話はこちらに書きました。情報を持たない受験生はもちろん、先生方でさえも無邪気にその赤字を信じて「入試に出る」と勘違いしがちなので、注意してください。

一方、未見史料問題はどのようにして解けばよいのでしょう。基本的には「読解」です。実は設問文や選択肢にヒントがあることも多いのですが、まずは史料の読解です。必ずヒントが潜んでいます。「日本史道場」では、その未見史料対策も行います。たとえば2010年の夏の道場のテキストには、こんな問題が掲載されていました。解いてみてください。ちなみに、すぐに答えを見てしまうと、せっかくの鍛錬のチャンスを失ってしまうのでもったいないですよ。携帯でごらんの方は、答えを出してから画面をスクロールしてください。

 (ク)[永承七年]壬辰正月廿六日癸酉,千僧を大極殿に屈請し,観音経を転読せしむ。去年の冬より疾疫流行し,改年已後,弥以て熾盛なり。仍りて其の災を除かむが為なり。今年始めて(ケ)[末法]に入る。
 (永保元年)九月十三日丙申,三井寺大衆中不覊なる倫等三百人計,密々相招き,夜半(コ)[山]に登りて乱逆す。一事も報ぜず残滅せられ畢ぬ。(略)十五日戊戌,未の時,山僧数百の兵衆を引率して三井寺に行き向ふ。重ねて残る堂舎僧房等を焼き畢ぬと云ふ。
(出典『扶桑略記』)
(編注:[]で囲った部分に下線が施されています)
(1)史料の下線部(ク)「永承七年」の前年に起こった出来事は何か。次の1~4から最も適切なものを1つ選びなさい。
 1.平忠常が上総で挙兵した。
 2.安倍頼時が陸奥で挙兵した。
 3.尾張守藤原元命が暴政を郡司らに訴えられた。
 4.白河上皇が院政を開始した。
(2)史料の下線部(ケ)「末法」の思想が流行するのにともない,浄土教の信仰がひろまったが,浄土教信仰に大きな影響を与えた源信の著作は何か。次の1~4から最も適切なものを1つ選びなさい。
 1.『日本霊異記』
 2.『往生要集』
 3.『梁塵秘抄』
 4.『日本往生極楽記』
(3)史料の下線部(コ)「山」は何をさすか。次の1~4から最も適切なものを1つ選びなさい。
 1.園城寺
 2.延暦寺
 3.興福寺
 4.金剛峰寺

いかがだったでしょうか。この史料は山川出版の『日本史史料集』などにも掲載されている史料ではありますが、取り立てて対策をしていなくても、つまり未見であっても読解すれば解けました。

(1)は「永承七年」を見て、すぐに西暦年がわかった人はすごいですね。『でる日講義−とことん文化史−』やワセヨビで文化史の講座を受講している人は「キターッ!」と言えたでしょうか。どのくらいの出題頻度なのかは伏せさせていただきます。もっとも、この問題では「今年始めて末法に入る」とあるので、ここで「なんだ、末法初年か」とわかるようになっています。末法初年は1052年ですから、その前年は1051年で前九年の役が始まった年です。というわけで答えは2。

(2)は「源信の著作」で即答できます。答えは2。他の選択肢の著者も考えておいた方が安全です。

(3)はどうでしょう。史料文1行目の「三井寺」はイコール園城寺です。そうすると、円仁・円珍の山門派・寺門派が浮かび上がってきますね。山門派は延暦寺を拠点とし、寺門派は園城寺を拠点として対立しました。文化史でやりましたか? そういえば院政期の僧兵の強訴のところでは、延暦寺の僧兵を「山法師」と呼ぶ話がありました。というわけで答えは2。ふと思いましたが、「園城寺=三井寺」のような別名って軽んじちゃってる人がいるでしょうね。こういうときに点差がついてしまうのです。授業では意味なく別名を紹介することはありません。その逆に、「学校では別名を教わったけど、予備校ではやらないなあ」と思ったら、それは不要な名前ということです。

さて、史料問題には文化史を題材としたものもあるわけですね。未見史料もあります。こうした問題に触れようというのが、「日本史道場」の狙いです。遠方で来られない人には、『どこでも史料問題』『でる日講義−とことん文化史−』をお勧めします。『でる日講義−とことん文化史−』には、ちゃんと「文化史の史料問題」が何題も入っているのです。そういう点でぬかりがないのが、当方の教材の特徴です。安心してお使いください。

関連記事